税務研修室
− Tax Seminor −

税理士 和田 造

『ゴルフ会員権贈与を考える』
名義書換料は取得費になるか?
ー 最高裁判決のポイントをつかむ! ー

 今年の2月に、税務訴訟(裁判)で画期的な最高裁判決が出ました。非常に興味深い内容ですので、簡単にお話しましょう。

事実関係は?
 
ある納税者が、父親からゴルフクラブの会員権の贈与を受け、その名義書換料を支払い、正式に会員となりました。その後、納税者はこの会員権をゴルフ会員権販売業者に売却し、その年の確定申告で会員権の譲渡所得を計算する際に、会員権の取得費として、父親が会員権の購入した時の取得代金と本人が支払った名義書換料を合計しました。
 これに対して税務署長は、名義手数料が取得費に当らず、譲渡取得を計算する際に控除できないと、「更正処分」 および「過少申告加算税」を課したのです。そこで、この納税者は、これを不服として、裁判を起こしました。

裁判の争点は?
 この裁判で争われた主な点は、次の二つです。一つ目は、名義書換料が譲渡取得の計算をする際に控除できる取得費に当たるかどうか?二つ目は、名義書換料が資産の譲渡に要した費用に当たるかどうか?特に重要な争点は、一つ目の名義書換料が取得費に当たるか?です。

東京地裁判決の要旨は?
 第一審の判決は、納税者の敗訴でした。その理由は、次の通りです。所得税の課税については、贈与により資産が移転する場合、贈与税が課税され、所得税は課税されません。その後、受贈者がその資産を譲渡した時に、もともとの贈与者の取得の時から譲渡するまでの増加益を、一気に課税の対象とします。この場合、その譲渡する資産の取得費は、もともとの贈与者が資産を取得した時の取得代金および付随費用の合計です。従って、贈与しても、贈与者が引き続き資産を所得していたと見なされることとなります。そのため、受贈者の譲渡所得の計算の際には、贈与の事実は無かったと考えるべきである。と判断しました。その結果、受贈者が所有権(会員権)移転(名義書換)のために支払った費用も一切無視するほか無い、と納税者の主張を否定する判決を出しました。

東京高裁判決の要旨は?
 
第二審の判決も、第一審の判断を支持し、納税者の主張を否定する判決を出しました。

最高裁判決の要旨は?
 第三審の最高裁判所は、第一審および第二審が名義書換料を取得費用として認めなかった判断を否定して、納税者の主張を認めました。その理由は、次の通りです。所得税の課税の考え方は、増加益に対する課税の繰り延べにあるので、受贈者の譲渡取得計算では、受贈者の資産保有期間の増加益を合わせたものを超えて所得することを予定していないと考えるべきである、と判断しました。その結果、受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用は、受贈者の資産の保有期間の増加益の計算上、資産の取得に要した費用として収入金額から控除されるべき性質のものである、と納税者の主張を認める最終判決を出しました。

新判決の影響は?
 この最高裁判決を受けて、国税庁は直ちに次の取り扱いを公表しました。「贈与・相続の際に支払われる不動産登記費用・名義書換手数料などについても、取得者が不動産・ゴルフ会員権を譲渡した場合の取得費に含めて計算するよう取扱いを改める」というものです。

今後の税務訴訟は?
 
終審裁判所が判断した法令解釈が、下級審の判決を覆しました。「憲法の番人」と呼ばれる最高裁判所の存在価値が改めて見直された今回の裁判が、今後の税務訴訟に与えたインパクトは、決して少なくないと思われます。

 

『ほほえみだより2005年5月号に掲載』