税務研修室
− Tax Seminor −

税理士 和田 造

『同族会社への貸付を考える』
無利息の場合はどうなるか?
ー 最高裁判決のポイントをつかむ! ー

 今月は、「個人から同族会社へ対して為された無利息貸付に同族会社の行為・計算の否認を定めた所得税法が適用される」とする最高裁判決について紹介します。

事実関係は?
 
原告A(納税者)は、B株式会社の社長であり、且つC有限会社の持分の98%(同族会社)を所有していました。Aは自分の所有するB社の株式3450億円分をD証券会社経由でC社へ売却する際に、C社がその株式を購入する資金3450億円(D証券会社の手数料を含む)をAがE銀行から借り入れて、それを無利息・無期限・無担保でC社に貸し付けました。C社は、その購入資金をそのままD証券会社に支払い、B社の株式を受け取りました。D証券会社は、手数料と有価証券取得税を控除した残額3425億円をAへ支払いました。Aは、E銀行へ借入金3455億円と利息を返済しました。被告F税務署長は、AがC社に対して行った無利息貸付について、利息相当分の雑所得がAに生じたと認定して、Aに対して所得税の更正処分を行いました。Aは、Fに対して異議申立てをしましたが、棄却決定が為されました。そこでAは、G国税不服審判所長に不服申立てをしましたが、GはAの請求を棄却する裁決を下しました。このため、Aは本件処分の取消等を求めて東京地裁へ提訴しました。

裁判の争点は?
 原告Aが裁判所へ訴えた内容は、被告F税務署長に対する@更正処分の取消A過少申告加算税賦課決定処分の取消B通知処分の取消及びG国税不服審判長に対するC裁決の取消でした。この裁判の主な争点は、先ず@に関連して、原告Aが自分の同族会社C社に対して行った無利子貸付が所得税法157条の「同族会社等の行為又は計算の否認」に該当するか?次にAに関連して、Aの申告当時における解説書(法人税質疑応答集)の見解と異なる被告F税務署長の処理は原告Aが主張する国税通則法の「正当な理由」に該当するか?の2点です。

地裁・高裁判決の要旨は?
 先ず@の所得税法157条の趣旨については、本来「収入無きところに課税無し」とする所得税法全般の原則の例外として、同族会社の行為又は計算であり、且つ株主等の所得税の負担を減少させる結果となるもので、その所得税の減少が不当と評価される行為は、客観的に経済的合理性が欠けるので、否認するものと判断しました。そして本件は、原告Aの所得金額及び税額は、通常の独立当事者間の有利息消費貸借と比較すれば、収受できたであろう利息相当額が減少したことは明らかであるとして、被告F税務署長の処理は違法ではないと判示しました。(なお、平成元年当時の税務署が行っていた課税実務上、個人から法人への無利息貸付は、ほとんど否認されていなかったという事情がありました。)
 次にAの当時の解説書(編者・推薦者・監修者がいずれも官職名を附した東京国税局勤務者でした)に記載した内容と異なる被告F税務署長の処理については、東京地裁が「私的な著作物」と判示したのに対し、東京高裁は東京地裁判決を取消しました。

最高裁判決の要旨は?
 
先ず@の点については、地裁・高裁と同様に無利子貸付が所得税法では否認されると判示しました。
 次にAの点については、地裁判決を否定して解説書=「正当な理由」を認めた高裁判決を、事案が異なるとして破棄しました。

今後の税務処理は?
 特にAの点については、国税局職員が顕名で課税実務を解説した出版物に対する国民の信頼を裏切る課税庁の処分は信義則違反と見なされる可能性はあるにしても、今後は解説書を盲目的に信用しないことが肝要となります。

『ほほえみだより2005年8月号に掲載』